分離膜コラム
バイオ分野・研究用途における限外ろ過法 タンパク質分離の仕組み
タンパク質・酵素・抗体などの精製・濃縮に不可欠な技術です。
クロマトグラフィー工程の前後で行われる処理として広く使用されています。
バイオ分野における限外ろ過法について紹介します。
限外ろ過(UF)とは?バイオ分野で使用される理由
限外ろ過法とは
限外ろ過(UF)とは膜分離技術の一種であり、孔径によるふるい分けの原理を利用しています。
限外ろ過とは?
タンパク質・核酸・多糖の分離に適用されています。
膜分離技術には、精密ろ過から逆浸透まで様々な方式があり、処理対象物質のサイズに応じて適切な方式を選択することで、最適な分離が可能となります。
バイオ分野における主な用途
・タンパク質・酵素の濃縮
タンパク質溶液の緩衝液交換、クロマトグラフィー工程の前処理および後処理における条件調整、ならびに塩濃度やpHの変更に用いられます。
・抗体・バイオ医薬品の製造工程
抗体の濃縮、製剤化前のバッファー交換、不純物の除去、およびウイルスベクターやワクチン成分の濃縮に用いれらます。
・ウイルスの濃縮
様々なウイルスの濃縮に用いられます。
・核酸・プラスミドDNAの精製・濃縮
mRNA製造工程における濃縮およびバッファー交換、プラスミドDNAの濃縮、ならびに反応後の低分子成分除去に用いられます。
・細胞培養液・発酵液の処理
微生物発酵液からの酵素回収、細胞培養上清からのタンパク質回収、および培地成分や代謝物の除去に用いられます。
・エクソソーム・細胞外小胞の濃縮
研究用途におけるエクソソーム回収や、再生医療・診断用途の試料前処理に用いられます。
タンパク質分離を可能にする限外ろ過
タンパク質特有の挙動
・濃度分極の影響
膜ろ過中には、膜表面付近にタンパク質が濃縮されます。この現象は濃度分極と呼ばれ、膜近傍のタンパク質濃度が高くなることで、ろ過速度の低下やゲル層形成やタンパク質凝集を促進し、ファウリングの原因となります。
・膜への吸着
タンパク質は膜材質との相互作用により、膜表面や膜孔内に吸着することがあります。この吸着により、目的タンパク質の回収率が低下するほか、膜孔が狭くなり、透過流束が低下することがあります。
・ファウリング・ゲル層形成によるろ過速度の低下
タンパク質は膜表面に堆積したり膜孔を閉塞したりすることで、ファウリングを引き起こしやすくなります。処理時間の経過とともに膜抵抗が増加し、ろ過速度が徐々に低下するのが一般的です。
・分子量だけで分離が決まらない
タンパク質の透過・保持は、分子量だけで単純に決まるわけではありません。分子の形状、立体構造、電荷、pH、イオン強度、膜材質との相互作用などの影響を受けるため、同じ分子量のタンパク質でも異なる挙動を示す場合があります。
・凝集・変性が生じる
限外ろ過中には、濃度分極による膜表面近傍での局所的な高濃度化や、ポンプおよび流路内でのせん断応力、気液界面との接触、pHや塩濃度の変化などにより、タンパク質が凝集または変性することがあります。その結果、活性低下、沈殿、白濁、凝集体形成などが起こる可能性があります。
・ダイアフィルトレーション中に収率低下が起こる
本来、限外ろ過では目的タンパク質を保持しながら低分子成分を除去しますが、実際には膜や配管への吸着、一部透過、凝集、ならびにpHや塩濃度変化による不安定化によって収率が低下することがあります。そのため、処理後にはタンパク質濃度、活性、純度、凝集体量などを確認することが重要です。
タンパク質の限外ろ過では、膜による分離そのものに加えて、膜表面での濃縮・吸着・凝集をいかに抑えるかが重要になります。
研究用途で使われる限外ろ過フィルターの種類
研究用途で使われる限外ろ過フィルターには、試料量、目的、処理方式によっていくつかの種類があります。主なものは以下の通りです。
限外ろ過フィルターの種類・中空糸型限外ろ過モジュール
・中空糸型限外ろ過モジュール
細いストロー状の中空糸膜を束ねた構造のフィルターです。膜面積を大きくしやすく、比較的大容量の試料処理に適しています。比較的穏やかなせん断条件で運転できるため、細胞外小胞、ウイルス、タンパク質複合体などの壊れやすい試料の濃縮にも用いられます。
弊社では研究用途では中空糸型の小型モジュールをラインナップしています。
中空糸型分離膜モジュール
・クロスフロー式限外ろ過フィルター
試料を膜面に対して平行に流しながらろ過する方式です。膜表面への物質の堆積を抑えやすく、デッドエンドろ過と比較してファウリングを低減できます。研究用途では、小型のTFF、Tangential Flow Filtration装置が広く使われます。タンパク質、抗体、ウイルスベクター、エクソソーム、ナノ粒子などの濃縮やバッファー交換に適しています。
・カセット型限外ろ過膜
平膜を積層したカセット構造のフィルターで、主にTFFシステムで使用されます。研究開発からスケールアップ検討まで幅広く使いやすく、バイオ医薬品製造プロセスの条件検討にも用いられます。
・メンブレンディスク・平膜
単体の膜ディスクとして提供されるタイプです。専用ホルダーや撹拌セルに装着して使用します。膜材質、孔構造、分画分子量による違いを評価しやすいため、研究開発や膜性能評価に用いられます。
膜材質による分類
・再生セルロース
タンパク質の吸着が比較的少なく、バイオ用途でよく用いられます。
・ポリエーテルサルフォン(PES)
流束が高く、耐薬品性も比較的良い材質です。
・ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
疎水性が高く、タンパク質が吸着しやすいため、注意が必要です。
・セルロース系
タンパク質に対する吸着が比較的少ないため、タンパク質の濃縮を重視する用途に適しています。
・ポリスルホン(PS)
比較的強度や耐熱性があり、プロセス用途にも用いられます。
分画分子量による分類
研究用途では、目的物の分子量やサイズに応じて適切な分画分子量の膜を選びます。
分画分子量とは?
限外ろ過合装置の種類と研究室での使い分け
ラボスケールでの試験装置
少量から中量の試料を用いて、タンパク質、核酸、ウイルス粒子、エクソソームなどの濃縮、脱塩、バッファー交換、膜性能評価を行うための装置です。
弊社ではラボ試験として、受託試験とラボ用貸出試験機を準備しています。
受託試験・貸出試験機について
パイロット・製造スケール装置
ラボスケールで良好な結果の場合、実機スケールへの適用を見据え、数百L規模のパイロットスケール・製造スケールでの試験へ進みます。
弊社ではパイロット試験機として中規模の膜モジュール1本を搭載した手動装置を標準ラインナップしています。
ラボ用貸出試験機と同様に、この装置についても貸出が可能です。
限外ろ過法のメリットと注意点
メリット
限外ろ過法の大きなメリットは、加熱や有機溶媒による抽出や沈殿操作を必要とせず、比較的穏やかな条件下で高分子成分を濃縮・分離できる点です。タンパク質、抗体、酵素、核酸、ウイルス粒子などの熱や化学変性を受けやすいバイオマテリアルの処理に適しており、生物活性や高次構造を維持したまま処理が可能な方法です。
また、分画分子量(MWCO)の異なる膜を選択することで、目的高分子を保持しながら塩類、糖、培地成分、低分子試薬などを除去できます。そのため、濃縮だけでなく、脱塩やバッファー交換にも広く利用できます。クロマトグラフィーと比較して、一般に樹脂の充填や溶出条件の最適化が不要であり、操作が比較的シンプルです。さらに、限外ろ過はスケールアップが容易な技術です。研究室レベルの遠心式フィルターや撹拌セルから、TFFカセットや中空糸モジュールを用いた製造スケールまで展開できます。
バイオ医薬品製造では、抗体や組換えタンパク質の濃縮・ダイアフィルトレーション工程として広く利用されています。加えて、膜分離は相変化を伴わないため、蒸発濃縮などの熱分離プロセスと比較してエネルギー消費を抑えやすいという利点もあります。連続処理や閉鎖系プロセスでの処理にも対応しやすく、工程の自動化や清浄性の確保にも適しています。
注意点
限外ろ過では膜表面への付着や細孔閉塞を含む膜ファウリングが大きな課題になります。タンパク質や粒子が膜表面に蓄積すると、濃度分極やゲル層形成が起こり、フラックスが低下します。処理が進むにつれてフラックスが低下するため、圧力、流速、濃縮倍率などを適切に管理する必要があります。
また、タンパク質やペプチドなどは膜や容器、配管に吸着することがあります。特に低濃度試料では吸着によるロスが相対的に大きくなり、回収率低下の原因になります。膜材質の選定や前処理、低吸着タイプのデバイス選択が重要です。分画分子量(MWCO)の選定にも注意が必要です。MWCOはあくまで目安であり、実際の透過・保持は分子量だけでなく、分子の形状、電荷、pH、イオン強度、会合状態、膜との相互作用に影響されます。そのため、目的物が完全に保持されるとは限らず、一部透過や不純物の共保持が起こる場合があります。さらに、濃縮が進むと試料の粘度や浸透圧が上昇し、フラックスが低下します。高濃度タンパク質溶液では凝集、沈殿、活性低下が起こることもあります。過度な圧力や長時間処理、せん断応力、気泡との接触なども、バイオマテリアルの品質に影響を及ぼす可能性があります。ダイアフィルトレーションでは、脱塩やバッファー交換を効率的に行うことができますが、交換液量、処理時間、および目的物の安定性を考慮する必要があります。pHや塩濃度が変化する過程では、タンパク質が不安定化する場合があるため注意が必要です。
他の分離技術との違い
・透析との違い
透析は半透膜を介した拡散によって低分子成分を移動させ、脱塩やバッファー交換を行う操作です。透析は主に濃度差による拡散で低分子を移動させるのに対し、限外ろ過は圧力差を駆動力として分離を行います。そのため、限外ろ過の方が処理時間を短くしやすく、同時に濃縮も可能です。一方、透析は操作が穏やかで、せん断応力や機械的ストレスが小さいという利点があります。
・遠心分離との違い
遠心分離は、密度や沈降性の違いを利用して分離する方法です。細胞、沈殿物、大きな粒子、オルガネラなどの分離に適しています。一方、限外ろ過は、密度差ではなく膜による分子サイズの違いを利用した分離です。そのため、遠心分離では分離・回収が困難な可溶性タンパク質や核酸の濃縮には限外ろ過が適しています。
・クロマトグラフィーとの違い
クロマトグラフィーは、分子の電荷、疎水性、親和性、サイズなどの違いを利用して、目的物を高純度に分離・精製する技術です。限外ろ過よりも選択性が高く、高純度化に優れています。一方、限外ろ過は高純度精製というより、濃縮やバッファー交換、脱塩や低分子成分の除去が得意です。そのため、バイオプロセスでは、クロマトグラフィーで精製した後に限外ろ過で濃縮・製剤バッファーへ交換する、というプロセス構成がよく用いられます。
・沈殿法との違い
沈殿法は、塩の添加、pH調整、有機溶媒やポリマーの添加によって目的物を沈殿させる方法です。大量処理や粗分画には有効ですが、タンパク質の変性や活性の低下を引き起こす場合があります。一方、限外ろ過は一般に添加剤を必要とせず、比較的穏やかな条件で濃縮できるため、活性や高次構造を維持したいタンパク質や抗体の処理に適した方法です。
限外ろ過法は、他の分離技術と比べて、高分子を保持しながら低分子を除去でき、同時に濃縮もできる点が大きな特徴です。
限外ろ過法の大きな利点は、タンパク質、抗体、核酸、ウイルスなどの高分子・生体成分を、比較的穏やかな条件で濃縮・脱塩・バッファー交換できる点です。熱や有機溶媒を使わず、活性や構造を保ちやすいことに加え、操作が比較的簡単で、研究スケールから製造スケールまで展開しやすい点も利点です。特に、目的高分子を膜で保持しながら塩類や低分子不純物を除去できるため、バイオ医薬品やタンパク質精製工程で広く利用されています。
貴社のサンプルで膜処理のご検討はありませんか?
弊社ではお客様のサンプルに応じて膜選定を行います。
まずはラボ試験からのご検討いかがでしょうか。下記までお気軽にお問合せください。